オーナーが強制立ち退きを要求できる条件とは。強制退去の理由と執行の流れ

賃貸経営を行っていくうえで入居者は大切なパートナーです。
入居者全員に安定して入居してもらえれば、賃貸経営は問題ありませんが、入居後にトラブルなどで状況が変わってしまうケースもあります。
オーナーにおいて、問題がある入居者というのは賃貸経営上マイナス要素です。
しかし問題があるからと言って簡単に退去させられるものではなく、きちんとした手順を踏む必要があります。
そこで、今回は問題のある入居者に対して強制立ち退きを行う理由や執行の流れについて解説していきます。すでに賃貸経営を行っているオーナーや、これから賃貸経営を始めてみようという方はぜひ参考にしてください。
強制退去の執行理由
一口に強制退去といっても、そこに至るまでにはさまざまな理由が存在します。
強制退去になるようなトラブルは大きく3点あります。
それぞれ具体的なケースを紹介しながら解説していきます。
家賃滞納
強制退去が発生する理由として最も多いのが入居者による家賃滞納です。賃貸経営オーナーにとっては収入がなくなってしまう大変な問題です。
一般の方にとって家賃滞納というのは考えにくい状況ですが、賃貸経営においては頻発する問題です。
公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が2021年に発表した賃貸住宅市場景況感調査「日管協短観」( https://www.jpm.jp/marketdata/ )によると、2020年平均の滞納率は実に5%にもなります。
2カ月以上の滞納率も1%あり、賃貸経営オーナーとしては見逃せない数字です。
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騒音問題
賃貸物件のトラブルとして多いのが騒音問題です。
一度騒音問題が発生してしまうと騒音ストレスを受けている他の入居者が退去してしまったり、最悪の場合入居者からオーナーが訴えられてしまったりする可能性もあります。
契約内容の違反
契約内容の違反も賃貸契約解除事由となり、悪質な場合は強制退去の対象となる場合があります。
賃貸契約内容や状況の大小によって違反かどうかは異なってきますが、代表例としては入居人数オーバー・無断転貸・ペット不可物件でのペット飼育などが挙げられます。それぞれの内容について解説します。
・入居人数オーバー
入居人数オーバーとは、契約時に申告した入居人数を超えて入居している状態のことです。
一時的に親族などが生活を共にするレベルであれば容認するオーナーも多いですが、単身タイプ住居での同棲生活や明らかに居住人数が多い場合は問題となります。
・無断転貸
無断転貸とは、貸主の承諾なしに第三者に転貸することを指します。
民法で無断転貸ははっきりと禁止されているので、契約解除事由となります。
・ペット不可物件におけるペット飼育
ペット不可物件におけるペット飼育は、契約内容に盛り込まれていれば契約解除案件になると考えられます。
ただし、ペットを飼育することによって賃貸人との信頼関係を破壊するおそれがある場合に限っての話です。
一般的に犬・猫などを室内で飼育するとにおいや騒音、建物内の傷が発生しますのでこれは信頼関係を破壊する行為と言えるでしょう。
しかし、熱帯魚などであれば建物や他の入居者に対して迷惑がかかることが考えにくく、賃貸人との信頼関係を破壊するおそれがあるとは言いづらいかもしれません。
強制的な立ち退きは難しい?その理由を紹介
家賃滞納や入居者トラブル、賃貸契約違反があったからといって即刻契約解除ができるわけではありません。
賃貸人と賃借人という関係性は、どうしても物件を借りる賃借人が弱い立場となってしまうため、弱者である賃借人を守る法律が多数存在します。
強制的な立ち退きが難しいとされる理由がここにあります。
特に居住用物件においては入居者が追い出されてしまった場合、命にかかわることもあるため、法律では個人による強制執行を禁止しています。
強硬手段を取ると・・・
入居者が問題を起こしたからといって勝手に強制的な立ち退きを行ってしまうと、オーナー側が訴えられる場合があります。
国土交通省の社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 民間賃貸住宅部会「最終とりまとめ」参考資料( https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/house02_sg_000068.html )に滞納・明け渡しをめぐる提訴事例が紹介されています。
内容としては新しい鍵を付けて使用できなくしたり、室内に侵入して家財を処分したりすることのような行為を法律に沿わずに強制的に行うことを不法行為としています。
オーナー側はあくまでも法律に従ってトラブル解決を図ることを求められています。
賃料滞納=契約解除ではない
賃料滞納はオーナーにとって大問題です。予定通り賃料の入金がない入居者はすぐにでも退去してもらいたいところですが、入居者としても滞納したくてしているという人ばかりではありません。
そのため、強制退去が認められる条件の中に、支払いの意思がないという条件があります。
例えば、一括でなくても一定の計画に沿って賃料を支払う意思があれば「支払いの意思がある」とみなされます。
分割支払いの提案などによって支払う意思があれば強制退去が認められないケースがほとんどです。
具体的には、賃料滞納分を○○カ月に渡って○○万円支払います、という内容です。
入居者の意思によって強制退去に進めるかが決まるので、強制退去を難しくしているハードルでもあります。
オーナー側の行動も問われる
強制退去に至る条件に貸主と借主の関係性が破綻している、というポイントがあります。
入居者側のトラブルであればイメージしやすいですが、貸主の行動も問われる可能性があります。
具体的なケースとしては、賃料滞納の理由が貸主の修繕義務違反などが該当します。
貸主であるオーナーは入居者が快適に過ごすことができるように建物を管理する義務が生じます。
例えば雨漏りが発生しており、貸主に対して修繕依頼を出しているにもかかわらず修繕が行われないことがあったとします。このような場合では、仮に賃料の支払いがない場合でも強制退去は認められません。
強制退去の手順
前述の通り、強制退去は賃借人の生活環境を脅かす場合もあるため、手順を踏んで進めていくことが必要です。
強制退去が必要になってしまった場合のために、強制退去の手順を紹介します。
強制退去の流れ
強制退去までの流れは以下の通りです。
-
- 改善依頼
- 連帯保証人への請求(賃料未払いの場合)
- 内容証明郵便における督促状送付
- 賃貸契約解除及び明け渡し請求訴訟
- 強制執行
それぞれの内容について解説します。
1.改善依頼
まずはトラブルを起こしている入居者に対して、トラブル内容の改善依頼や賃料支払い請求を行います。
口頭でも構いませんが、文章で行うことで記録を残す方が良いでしょう。
タイミングとしては、トラブルや賃料未払いが発生した直後です。
2.連帯保証人への請求
問題が賃料未払いだった場合、未払い請求を行っても賃借人から何も回答がない場合は連帯保証人への賃料支払い請求を行います。
賃借人から回答があったとしても支払いの日程が不明瞭な場合や、分割払い等の具体的な支払い計画が出てこなければ連帯保証人への連絡は進めます。
タイミングとしては、賃料未払いから1カ月を経過する時です。
請求依頼を行ってもトラブルが解決しない状態が3カ月程度続いた場合、現実的に強制退去へ進んでいくことになります。
3.内容証明郵便における督促状送付
次の一手としては、内容証明郵便による督促状を送ります。
その際の内容ですが、トラブル解決督促はもちろん、期限を設けて期限内に解決しない場合は賃貸契約解除する旨を記載することが必要です。
4.賃貸契約解除及び明け渡し請求訴訟
内容証明郵便による督促状送付をしても期限内に解決に向けて対応がない場合は、法的処置に進みます。
賃貸契約解除及び明け渡し請求訴訟を行います。
通常はここで和解勧告が行われて問題解決に至ります。
5.強制執行
中にはトラブルの原因が複雑で場合によっては話し合いがまとまらないことがあります。
そうなると裁判所が判決を下すこととなります。
その結果が賃借人の退去命令となってようやく強制力のある強制退去となります。
執行までの期間はトラブル発生から4カ月~6カ月が最短の期間です。
標準的には8カ月~10カ月程度かかっているのが実態です。
強制退去にかかる費用
強制退去を行うまでには内容証明郵便を使ったり、訴訟を起こしたりするため費用がかかります。
裁判にかかる費用として訴訟額に応じた手数料の他に、裁判に必要な書類(登記簿謄本など)の発行費用が数千円、予納郵便切手代6千円という費用が必要です。
また強制退去まで進んだとしても、強制執行するのも無料ではありません。
執行官への予納金である6.5万円が基本としてかかります。
あとは状況によって上下幅がかなりありますが、鍵の開錠費用(2万円~)や残された荷物の運搬費用(10万円~場合によっては100万円を超えることも)、廃棄処分費用(10万円前後)がかかります。
しかし民事執行法第42条に「強制執行の費用で必要なものは債務者の負担とする」と定められており、かかった費用については賃借人に請求できますので安心してください。
強制退去は弁護士に依頼する
強制退去までの流れを解説しましたが、裁判ともなると手続きが煩雑であったり、分からないことが多くあるため戸惑う方がほとんどです。
そこで頼りになるのが弁護士です。
トラブルが起こった際に弁護士に相談することで、強制退去までの流れをスムーズに進めることができ結果としてリスクを最小限に収めることができます。
弁護士費用としては幅がありますが、40万円前後+回収金の20%程度が標準的です。
話し合いで解決できるのが一番ですが、複雑なトラブルや長期間のトラブルであれば弁護士に相談することが一番の解決策であることも多いです。
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