賃貸物件の修繕トラブル事例と対処法|オーナーの義務と費用負担
賃貸物件の運営では、入居者との間で修繕をめぐるトラブルが起こることがあります。雨漏りや設備の故障などが発生したとき、どこまでオーナーが対応すべきか、費用負担をどう分けるかの判断が難しいことも原因の一つです。
修繕義務の範囲や入居者が負担すべきケースを正しく理解しておけば、不要なトラブルを防ぎ、安定した賃貸経営を続けることができるでしょう。
賃貸オーナーが負う修繕義務と対応範囲

賃貸物件のオーナー(賃貸人)には物件の修繕義務が課されていますが、不具合にはさまざまな原因があるため、全ての不具合をオーナーが負担するのは適切ではありません。
そのため、修繕の対応範囲が設定されているのです。しかし、どこまでオーナーが負担するのか見解が分かれることが多く、賃借人(入居者)とのトラブルに発展するケースもあります。
まずは、賃貸物件を所有するオーナーの修繕義務とその範囲について解説します。
オーナーの修繕義務とは
修繕義務については民法606条に、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕を行う義務を負う」と定められています。つまり、賃貸物件で生じる故障や劣化の多くは、オーナーに修繕義務があるということです。
一方、「ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りではない」という記載もあります。そのため、不具合の原因が賃借人の不注意や不適切な使用だった場合など、必ずしも賃貸人が修繕するとは限りません。
オーナーの修繕義務の範囲
賃貸物件におけるオーナーの修繕義務は次のような範囲に及びます。
- 建物の構造に関する修繕(屋根、外壁、基礎など)
- 給排水、電気、ガス設備の修理、修繕(給排水管、浄化槽、電気配線、コンセント、ガス配管、ガスコンロなど)
- 給湯設備の修理、交換(給湯器、ボイラーなど)
- 空調、換気設備の修理、交換(エアコン、換気扇など)
- 消防設備の点検、修理(火災報知器、消火器など)
- 雨漏りの修理
- 防虫、防蟻処理(シロアリ被害の予防)
- 天井、壁、床の修繕(通常使用による経年劣化の場合)
- 建具の修理(サッシ、室内建具、鍵交換など)
- 共用部の修繕(階段、共用廊下、照明器具、エレベーター、駐車場など)
- 法令に基づく改修工事(耐震補強工事、アスベスト除去など)
基本的に賃貸人(オーナー)の修繕義務の範囲は、修繕を行わないことで賃借人(入居者)が契約どおりに使用できなくなるかどうかで判断されます。
たとえば、雨漏りが発生して居室が水浸しになってしまうと、賃借人は本来どおりに生活するのが困難となるでしょう。そのため、屋根や外壁の不具合、給排水・電気・ガスなど日常生活に重要な設備の故障については、賃貸人が修繕義務を負います。
普通に生活している中で発生する床の傷や凹みなどについても、賃貸人の負担で修繕するのが一般的です。
オーナーが修繕しなくても良いケース
賃借人(入居者)の故意または過失によって修繕が必要になった場合、賃貸人(オーナー)が修繕義務を負わずに済むことがあります。
オーナーが修繕しなくても良いケースについて具体的に解説します。
賃借人の不注意によって破損した場合
以下のように賃借人の不注意による不具合は、賃貸人が修繕義務を負う必要はありません。
- 子供の落書きやいたずらによって発生した壁紙の破損
- 家具の移動により床についた傷や凹み
- 水道の水を出しっぱなしにして床が水浸し
上記のようなケースでは、基本的に入居者が費用を負担して修繕を行います。
喫煙やペットの飼育により臭いや汚れが発生した場合
入居者が室内で喫煙したことによる壁紙の汚れ(変色)、ペットの飼育により発生した壁紙の損傷や臭いの付着などは、物件の価値を下げてしまうおそれがあります。
そのため、退去時にオーナーは入居者へ対して修繕費用を請求することができます。
賃借人のリフォームにより原状回復が必要になった場合
入居者が借りている部屋をDIYでリフォームした場合、賃貸物件としての資産価値が下がる可能性があります。
そのため、オーナーは退去時に入居者へ原状回復として、賃貸契約締結時の状態に戻すよう要求できます。
賃貸物件で必要な修繕の種類と費用相場

建物は築年数が経過するにつれて劣化が避けられません。賃貸物件においては、賃借人(入居者)とのトラブルを避けるためにも、賃貸人(オーナー)が定期的な修繕を行うことが大切です。
以下に、修繕が必要になる工事の種類と期間、および費用の目安をまとめました。
| 工事の種類 | 工事の時期 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 原状回復工事 | 入居者の退去時 | 3万円~20万円程度 |
| 補修工事 | 随時 | 1万円~30万円程度 ※設備の故障修理、雨漏りの修繕など突発的なもの |
| 予防修繕工事 | 定期的(数年ごと) | 数万円~数十万円程度 ※防蟻工事、設備の入れ替え・更新など |
| 大規模修繕工事 | 定期的(10~15年ごと) | 1戸あたり100万円程度(建物の規模により異なる) ※屋根・外壁塗装工事、防水工事などの共用部分の修繕 |
| 空室対策工事 | 随時 | 数十万円~100万円/戸 ※室内リフォームなど |
賃貸物件でよくある修繕トラブル事例と対処法

賃貸物件では、修繕の責任がオーナーと入居者のどちらにあるのかをめぐってトラブルになることがあります。通常の使用による設備の劣化はオーナー負担ですが、入居者の過失が原因による損傷は入居者の負担です。
以下では代表的なトラブルを紹介します。
入居者の過失でクロスが破損してしまった
クロス(壁紙)の日焼けや変色、経年劣化によるはがれなどは、オーナーの修繕負担となります。一方、入居者が不注意により破損してしまった場合は、入居者の負担となるのが一般的です。
ただし、入居者が修繕費用を全額負担するケースは少ないでしょう。
クロスの破損部分も経年劣化や損耗しているため、劣化部分はオーナー負担となり、入居者は残りの補修費用のみを支払うことになります(クロスの耐用年数はおおむね6年)
なお、ふすまや障子などの紙類は消耗品とされ、破損時の張り替え費用は全額入居者負担となります。
参考:東京都|賃貸住宅トラブル防止ガイドライン第4版
入居者がカギを紛失したためシリンダーを交換した
入居者がカギを紛失した場合、専門業者に解錠を依頼すれば室内に入ることは可能です。ただし、紛失したカギは悪用される恐れがあるので、必ずカギのシリンダーを交換します。
交換費用は入居者の負担になりますが、勝手に鍵のシリンダー交換を行わないように事前連絡を徹底してもらうことが大切です。無断で交換されると、オーナーや管理会社がマスターキーで入室できなくなるなど、建物全体の防犯・管理上で支障が生じるためです。
一方で、入居者の安全性が損なわれるため連絡を受けた際、オーナーはできるだけ早急に対応するようにしてください。
入居者が勝手に設備を修繕してしまった
賃貸物件の設備や内装はオーナーの所有物であり、勝手にリフォーム・修繕することを禁止する契約になっていることがほとんどです。入居者から「故障していた設備を修繕しただけ」と説明を受けることがあるかもしれませんが、無断で行われた工事については原則として入居者負担です。
ただし、民法607条の2により「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」と定められています。
つまり、修繕が必要な状況にもかかわらず、入居者からの連絡後にオーナーが適切な対応を取らなかった場合、入居者は修繕を実施し、その費用を請求できるということです。
入居者から修繕依頼の連絡を受けた際は、速やかに対応することが重要です。対応を怠ると、入居者が自費で修繕を行えるため、費用請求や信頼関係の破綻、最悪の場合は契約解除に発展するおそれがあります。
入居者が手配した配線工事が原因で雨漏りが発生した
通常、賃貸物件で雨漏りが発生した際の修繕義務はオーナーにあり、修繕費用もオーナーが負担します。
ただし、入居者側で手配したインターネットの配線工事が雨漏りの原因になっている場合は、オーナーから修繕費用を請求することが可能です。雨漏りが発生した場合の費用負担については、事前に両者で取り決めをしておくとトラブルを防げます。
賃貸物件の修繕は、入居者との信頼関係を左右する重要な業務です。法的な判断や費用負担の線引きが難しいため、トラブルに発展することも珍しくありません。
専門知識を持つ管理会社に委託することで、修繕対応や入居者対応を適切に行え、安心して賃貸経営を続けられるでしょう。
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