賃貸をゴミ屋敷にされた際の損害賠償請求や原状回復費用について。


賃貸住宅をゴミ屋敷にされると、貸主には大きなダメージがあります。1つの部屋がゴミ屋敷になるだけで、物件全体の入居率低下に繋がってしまいます。また、ゴミ屋敷は他の入居者の退去を招くため、家賃収入を得られず、利益が大幅に下がることもあります。


賃貸住宅をゴミ屋敷にされた場合、入居者に損害賠償を請求できるのでしょうか。





賃貸をゴミ屋敷にされたらどうする?


ゴミ屋敷は、周辺住民に大きな悪影響を及ぼします。


特に迷惑なのは悪臭です。生ゴミやペットボトル飲料の飲み残しがあると、時間の経過とともに腐り、嫌なニオイを放ちます。ゴキブリなどの害虫発生の原因にもなります。


さらにゴミ屋敷は火災リスクが高くなり、生命・財産の危機につながることもあるのです。


所有する賃貸住宅をゴミ屋敷にされてしまった時の対処法をみていきましょう。


勝手に処分はできない


ゴミ屋敷のゴミは例え物件オーナーであっても、他人が勝手に捨てることはできません。なぜなら、たとえゴミのように見える物にも、法的に所有権があるからです。


本人が「ゴミではない」と主張すれば、貸主や周辺住民、役所の担当者などが手を出せないのです。


万が一、無断で捨ててしまうと、所有権の侵害にあたります。被害届を出されると、窃盗罪とみなされる可能性もあるでしょう。さらに私有地へ無断で立ち入った場合は、住宅侵入罪に問われるおそれすらもあるのです。


入居者本人と相談


まずは、口頭や電話、文書などで入居者本人にゴミを捨ててもらえないか相談してみましょう。第三者にはゴミに見えていても、本人に自覚がない場合があるので、ひとまず声をかけてみましょう。


また、ゴミ屋敷問題は裁判に発展するケースも多いので、「何度か注意をした」という経緯は後々役立ちます。いつ、どのように交渉したか、記録に残しておくことが大事です。


内容証明郵便の送付


複数回に渡って注意しても、ゴミを片付けてもらえない場合は、内容証明郵便の送付を検討しましょう。


内容証明郵便とは、いつ・誰が・誰に・どんな内容の郵便を送付したのか証明できる郵便です。ゴミ屋敷問題のほか、未払い家賃の督促などにも利用されます。


郵送する際は基本料金に加えて、一般書留と内容証明の加算料金がかかります。内容証明の加算料金は440円で、2枚目以降は260円増額します。


費用はかかるものの、口頭や通常の郵便物での注意と異なり、しっかりとした証拠を残せます。言った・言わないのトラブルを回避できるのが利点です。


内容証明郵便には以下のような内容を記載しましょう。


  • 期日を定めたゴミの処分依頼

  • 期日まで対処しない場合は、ゴミの処分・賃貸契約の解除を行う旨


正確には、期日を過ぎても所有権があるため、すぐにゴミを撤去できません。ただ、注意勧告をした実績が作れるので、訴訟が進めやすくなります。


参照:日本郵便株式会社「内容証明郵便の利用料金


強制退去は難しい


賃貸のゴミ屋敷化は、民法644条で定められている「善良な管理者の注意義務(善管注意義務)」に違反する行為と考えられます。


善管注意義務とは、契約を行う上で一般的に要求される程度の注意をもって、目的物を保管しなければならない義務です。つまり、入居者は部屋を明け渡すまで、物件の状態をある程度は維持しなければならないということです。


ゴミ屋敷はこの法律に反しているのは間違いありません。一方で、誰もが正当な理由をもって住居を得ることができる居住権も持ちます。この二つの観点から、ゴミ屋敷にしてしまった入居者であっても、即時の強制退去させることは難しいです。


賃貸借契約の解除は不可能ではありませんが、長い時間と労力がかかることを肝に銘じておきましょう。


退去に至る一般的な流れは、以下のとおりです。


①入居者本人への注意


入居者本人に、口頭や電話、文書で何度も注意する必要があります。


➁行政機関へ相談


役所や警察署、保健所などに所有する賃貸住宅をゴミ屋敷にされている現状を報告します。一度の相談では動いてもらえないケースもあります。何度も繰り返し相談して、行政へ助けを求めたという実績を作るのが大切です。


➂内容証明郵便を送付


内容証明郵便を対象の入居者に送付します。ゴミを撤去する期日は、余裕をもって記載しましょう。期日に向けて、複数回に渡って通知するのが有効です。「何度も通知したのに無視された」という経験は手間がかかり、精神的にも苦痛を伴いますが、退去に至るまでの実績を作っていると割り切っておきましょう。


➃賃貸契約の解除を要求


期日までに改善が見られない場合、善管注意義務違反を理由に退去を要求します。


➄弁護士に相談する


入居者が退去に応じない場合、弁護士に相談するのも選択肢のひとつです。裁判以外の解決策を提案してもらえるかもしれません。


弁護士が入居者と交渉することで、契約解除に応じる可能性があります。なお、弁護士に対する報酬が発生します。


⑥裁判所へ明け渡し訴訟


弁護士が交渉しても解決しない場合、裁判に発展するケースがあります。裁判は判決が出るまで時間がかかり、弁護士への着手金や報酬金など多額の費用が発生します。


参照:e-Gov「民法



ゴミ屋敷問題に対して損害賠償請求はできる?


ゴミ屋敷の入居者が退去したあと、部屋をきれいに修繕するには多額の費用がかかります。それらはすべて大家負担なのでしょうか。


元入居者に対する損害賠償請求の可否や、原状回復費用について解説します。


損害賠償の請求について


元入居者に対して損害賠償請求は可能ですが、容易ではありません。


話し合いによって損害賠償請求を行う示談交渉では、支払いに応じてもらえないこともあるでしょう。


示談で交渉が成立しなかった場合、裁判にもつれ込むケースがあります。明け渡し訴訟と同じように、弁護士に対する報酬が発生するうえに、裁判が長期化するおそれがあります。


原状回復費用


元入居者から賠償金を支払ってもらうのは困難です。しかし、元入居者の負担が一切ないわけではありません。


賃貸物件を契約すると、入居者には原状回復義務が生じます。


原状回復費用については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下ガイドライン)」でまとめられています。


参照:国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン


ガイドラインに記載されている原状回復義務の定義によると、経年劣化や通常損耗の費用は、貸主の負担です。入居者がわざと傷つけたり、不注意で汚したりした場合の費用は、元入居者が負担しなければなりません。


ゴミ屋敷問題による原状回復費用は後者に該当しそうですが、全額負担してもらうのは難しいでしょう。実際に請求できるのは、経年劣化や通常損耗分を差し引いた金額です。


経年劣化とは、時間の経過とともに建物や設備の品質が落ちることを指します。たとえば日差しによって床や壁が色あせた場合などがあてはまります。通常損耗とは、普通に生活していて発生する傷や汚れです。


ガイドラインには、原状回復費用は経過年数を踏まえる必要があり、年数が長いほど負担は抑えるべきと記載しています。


それぞれの設備には耐用年数があります。設備の耐用年数が残り少ない、もしくはすでに超えている場合は、価値がほとんどありません。


そのためゴミ屋敷問題で使い物にならなくなった設備を交換しても、その費用の多くを負担するのは貸主になってしまうのです。


【判例】原状回復費用に関する裁判


ガイドラインに記載されている、原状回復費用を巡る裁判の事例を紹介します。


事例①東京簡易裁判所の判決(平成7年8月)


「10年近く賃借していたことを考慮すると、時間の経過にともなって生じた自然の損耗といえる。」との判決で、問題になった部位の多くを貸主が負担しました。


【トラブルになった点】

・絨毯への飲みこぼし

・冷蔵庫排気跡

・家具跡

・畳の擦れ跡

・網戸の穴

・額縁のペンキ剥がれ


【入居者が負担した費用】

ふすまの張替費用のみ


事例②川口簡易裁判所判決(平成19年5月)


「18年以上賃借していた物件で、内装の修理・交換が一度も行われておらず、この間に発生したカビは手入れに問題があったとしても経過年数を考慮して原状回復費はない」との判決で、入居者の負担は発生しませんでした。


【トラブルになった点】

カビの発生責任の所在


【入居者が負担した費用】

なし


上記の例から、長年設備の入れ替えやリフォームを行っていない賃貸の場合、原状回復費用の貸主負担が多くなりやすいことが分かります。





賃貸のゴミ屋敷を未然に防ぐためには


賃貸がゴミ屋敷化してしまうと、スムーズに解決するのは難しいです。ここでは、ゴミ屋敷トラブルを回避するためのコツを解説します。


丁寧な入居審査を行う


賃貸の空室は、家賃収入の減少に直結します。そのため「早く空室を埋めたい」という気持ちで甘い審査をしてしまう方もいるでしょう。


しかし日本の賃貸契約は貸主よりも借主を守る内容のため、一度入居させてしまうと強制退去は困難です。思わぬ損害を防ぐためにも厳しめに入居審査を行い、不審な人の入居は断りましょう。


「ゴミ屋敷になりそうな人」を見極めるのは簡単ではありませんが、たとえば以下のような人は要注意です。


・身だしなみに清潔感がない

・収入が安定していない

・言葉遣いや態度が悪い

・連絡がつながりにくい

・時間や期限を守らない


特に態度が悪く連絡のつながりにくい人は、万が一ゴミ屋敷トラブルに発展した際、交渉がうまくできず問題が深刻化するおそれもあります。


ただ、ゴミ屋敷問題を引き起こす人の中には、外出時の容姿に気を配っている人や職業・収入に問題ない人もいるようです。


次で解説する賃貸契約書や定期的な訪問でトラブルを予防しましょう。


賃貸借契約書に特約をつくる


物件の契約時に、貸主と借主は賃貸契約を結びます。その際に作成されるのが「賃貸契約書」と「重要事項説明書」です。


これらの書類には、物件の名称や所在地に加え、賃料・共益費・契約期間・更新などの取り決めが記載されています。


賃貸契約書や重要事項説明書に、ゴミの取扱いに関する特約を明記しておけば、後々非常に役立ちます。


「ゴミ屋敷になった場合は、賃貸契約を解除する」「ゴミ屋敷化に伴う修繕費用は、借主が負担する」といった内容を記載するのが有効です。


契約時にきちんと説明し、借主に退去や費用負担のリスクを感じてもらいましょう。ゴミ屋敷の特約を不都合に感じる人は、この時点で入居を辞退する可能性もあります。


入居者とのコミュニケーション


ゴミ屋敷は、時間の経過とともに状態が深刻化します。ゴミが溢れていることに早く気づくには、入居者とのコミュニケーションが大事です。


契約時だけではなく、消防設備や水道設備の点検も兼ねて各部屋を訪ねましょう。定期的に大家もしくは業者が訪ねてくる環境なら、部屋を見られることを気にして、ゴミを片付けるかもしれません。


その時に部屋の様子をチェックし、ゴミを溜め込んでいるようなら注意することもできます。


ゴミ屋敷にさせないための努力も意識しておきましょう。





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