公開日:2022.03.23 / 最終更新日:2024.09.18 賃貸管理 家賃対応夜逃げ

家賃滞納で夜逃げした人を罪に問える?対処法や家賃の時効を解説

指をさすスーツの男性

アパートを経営するオーナーにとって、入居者から受け取る家賃は自身の生活に直結する、重要な収入源です。

入居者の中には、やむにやまれない離職などで家賃の支払いが困難になる人もいます。家賃滞納が長期にわたると、入居者が夜逃げをする事態にまで発展することも珍しくはありません。

オーナーは、家賃滞納で夜逃げした入居者を罪に問うことはできるのでしょうか。また、滞納した家賃は回収することが可能なのでしょうか。

本記事は、アパートやマンションなど賃貸物件のオーナー向けに、家賃滞納で夜逃げされた場合の対処法を解説します。

家賃滞納で夜逃げした入居者は罪に問える?

家賃滞納の場合、罪に問うことはできず、民事訴訟を起こすことで家賃を回収します。

この章では、家賃滞納が民事訴訟になる理由と訴訟の種類を解説します。

家賃滞納は民事扱い

家賃滞納で夜逃げした入居者を裁判所に訴えるならば、訴訟区分としては民事訴訟です。払うと約束した家賃を払わないことは、オーナーにとっては詐欺に思えます。しかし、詐欺かどうかのポイントは「意図的かどうか」が重要になります。

もともと家賃を滞納する気でいたのであれば、詐欺罪として告発することができ、刑事訴訟に発展することもあるかもしれません。

しかし、家賃を最初から滞納する気があったかどうかを証明するのは非常に困難です。そのため、家賃滞納に対して訴訟を起こす場合は、民事訴訟が一般的です。

滞納された家賃が60万円未満の場合

夜逃げした入居者が滞納していた家賃が60万円に満たない場合は、簡易裁判所に少額訴訟を申し立てます。

少額訴訟は簡易的な裁判のため、1回の審理で結審をもらえます。スピーディーな処理ができるため、回収コストを抑えることができ、滞納家賃の請求に適した訴訟方法です。

ただし、建物の引き渡し請求には利用できないため、少額訴訟だけでは夜逃げの問題を解決できません。あくまでも滞納された家賃を回収するための訴訟と理解しておきましょう。

滞納された家賃が60万円を超える場合

滞納された家賃が60万円を超える場合は、通常訴訟を申し立てることになります。

ただし、少額訴訟とは違い、労力と時間、コストは少額訴訟とは比べものにならないくらい膨大になります。回収が必要な家賃と訴訟に関わる費用を天秤にかけ、労力やコストに見合っているかどうかは、よくよく見極めましょう。

また、仮に勝訴したとしても、滞納された家賃が全額戻ってくるとは限りません。

ほとんどの家賃滞納者は支払い能力がない(お金がない)から家賃を滞納しています。裁判所に命じられたとしても、ないお金を払うことはできません。

全額回収することはできないものとして考えておいた方が賢明、という意見もあることを知っておきましょう。

夜逃げの対処法

夜逃げされた場合、オーナーはどのような対処をすればよいのでしょうか。

入居者と連絡を取ることができればよいですが、夜逃げした入居者とは簡単に連絡はつきません。そのため、連帯保証人に連絡し、契約解除手続きをすることになります。

また、夜逃げ後の部屋を処理するためには、賃貸契約解除や強制執行手続きが必要です。

対処法①連帯保証人に連絡する

夜逃げされた場合、入居者に連絡が取れないのであれば、連帯保証人に連絡しましょう。連帯保証人に連絡がつけば、滞納した分の家賃の請求や契約解除手続きができます。

連帯保証人の中には家賃の支払いに応じない方もいるかもしれませんが、連帯保証人というのは単なる保証人ではありません。「連帯」という言葉がついているとおり、入居者と同等の責任を負う必要があります。

対処法②賃貸借契約を解除する

夜逃げであることを確定させるには、連帯保証人と警察に同行してもらったうえで、入居者の部屋に入る必要があります。

ただし、夜逃げが確定したとしても、すぐに賃貸契約を解除できるわけではありません。民事訴訟による、賃貸借契約解除の手続きが必要です。

その場合、次の手続きが必要です。

    1. 入居者や連帯保証人の住所を確定させる
    2. 配達証明付き内容証明郵便で明渡し請求を送る(ただし、住所不明の場合は公示送達の申し立てをする)
    3. 裁判所に賃貸借契約解除の訴状を提出する
    4. 賃貸借契約解除後、残置物処分に対する強制執行の申し立てをする

公示送達とは、住所が特定できない場合に内容証明郵便での意思表示ができないため、一定期間裁判所の掲示板に掲示することで意思表示する方法です。

訴状提出時には裁判所に対し、夜逃げの証拠を提出する必要があります。

対処法③残された家財は処分する

賃貸借契約を解除しても、残された家財を処分するには、強制執行手続きが必要です。

賃貸借解除の手続きは、あくまでも解約を解除しただけなので残された家財を処分してよいことにはなりません。そのため、解約解除手続きとは別で、強制執行手続きを取る必要があります。

ただし、家財を処分するためにかかる費用や原状回復の費用は、すべてオーナーの負担となることが一般的です。

対処する際の注意点

家賃滞納による夜逃げに対処する際には、いくつか注意しなければいけないポイントがあります。夜逃げにあった場合のリスクを理解し、対策を打っておくことが必要です。

オーナーが罪に問われることがある

家賃滞納で夜逃げをした入居者の対応をする場合、法律に則った手順を踏まなければ、オーナーが逆に罪に問われる場合があります。

日本には自力救済禁止の原則が法律で定められています。たとえオーナーであったとしても、家賃滞納者の部屋に勝手に入る、部屋のものを勝手に整理するといった行為をした場合、民事上や刑事上の責任を問われてしまう可能性があるのです。

もし、オーナーが入居者の許可なく部屋に入った場合、民事上では不法行為による損害賠償請求、刑事上では窃盗罪や住居侵入罪に該当する可能性があります。現に、オーナーが勝手に入居者の部屋に入ったことで、入居者に訴えられ、慰謝料を払ったケースもあります。

部屋に残された家財に関しては、連帯保証人の協力があれば、連帯保証人の力を借りて処分できます。しかし、もし連帯保証人の協力が得られなかった場合は、強制執行の手続きを踏まなければなりません。

また、部屋に入るだけでなく、勝手に部屋の鍵を交換することも認められていません。

ただし、入居者の部屋で雨漏りが発生したような、物件の保存行為に該当する場合はオーナーが部屋に入ることが認められています。

裁判所への手続きをすべてオーナーひとりで行うことは現実的ではないため、弁護士の力を借りましょう。

賃貸借契約書に記載してあっても自力救済は認められない

オーナーが入居者とのトラブルを想定し、以下のような特約を賃貸借契約書に記載していた場合でも自力救済に該当します。

    • オーナーは必要であれば、合鍵を使用して部屋に立ち入ることができる
    • 入居者が行方不明になった場合は家財を処分できる

このような特約を設けることは、公序良俗に反する契約となるため、無効となる可能性があります。抜け道として、警察に入居者の安否確認を理由に立ち会いを求めるのもひとつの方法です。

家賃には時効がある

家賃の支払い義務には時効があります。支払時期から5年が経過すると、支払義務はなくなります。

夜逃げされた場合、法的手段を取れば滞納家賃を回収できると思って、行動が遅くなるオーナーもいるかもしれません。何もせずに5年間放置していた場合、滞納された家賃を回収できなくなるため、夜逃げされた場合は速やかに対応しましょう。

ただし、家賃の時効には「中断」や「延長」があります。訴訟を起こした場合は、10年に時効が延長します。滞納者が滞納を認めた場合や、仮押さえや差し押さえが成立した場合は、時効が中断します。

行動を起こせば、必ず「中断」や「延長」になるので、速やかに行動を起こしましょう。

金銭的な損失

入居者が夜逃げをした場合、オーナーは金銭的な損失を被ります。

入室や家財の処理を始めるまでの手続きにかかる費用や、原状回復の費用はオーナー負担です。家賃滞納分と合わせても、数百万円単位の損失が出るケースもあります。

さらに、夜逃げされた部屋は空室ではないため、新たな入居者を募集できません。家賃収入が入ってこないということです。

家財を処分するときには、鑑定に出して現金化するといった工夫も必要になるかもしれません。しかし、焼け石に水くらいの少額にしかならないでしょう。

夜逃げにあった場合は、こういった金銭的損失を被るということを理解しておくことが必要です。

家賃保証会社と契約している場合

家賃滞納による夜逃げのリスク対策として、家賃保証会社の利用が有効です。夜逃げによって被る損害のうち、家賃滞納分の保証が見込めます。契約内容によっては、訴訟費用や家財の撤去費用に対する保証が用意されている場合もあります。

ただし、家賃保証会社を利用しておけば安心というわけでもありません。

夜逃げは家賃保証会社にとってもリスクが大きい案件です。連絡が取れないことが多く、滞納した賃料を回収できないケースがあります。

そのため、家賃保証の条件を設定しているところもあります。たとえば、夜逃げや事故、病気、自殺といった場合は保証しないといった具合です。

夜逃げにあった場合の保証条件を厳しくしているところもあるので、契約内容を確認しておきましょう。

また、家賃保証会社が破綻した場合は当然ながら家賃保証を受けることはできません。条件がよく、経営が安定している家賃保証会社を選ぶことも大切です。

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